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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第4章 禅寺人斬り騒動編


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にの江「……そう、だったのかぃ……」



あたしは、やっとそれだけ呟くと、零れそうになった涙を堪えて

キュッと唇を噛んだ


…きっと、雅吉には剣の道しか無かったのだろう


両親に幼い頃先立たれ

身寄りも無く、なんの後ろ盾も無かった少年に

唯一残されていた「剣」と言う道


少年には、その道を究める他、生きる術が無かったに違いない



そうして、手に入れた「剣豪」と言う称号が

…お殿様たちの、お遊びの道具でしか無いと気付いた時の雅吉の心情を想って

胸が、張り裂けそうに傷んだ



雅吉「……何だよにの江、景気の悪い顔しやがって(笑)」

にの江「……うるさぃね///」



口の悪さとは裏腹に、ただただ優しく穏やかな雅吉の眼差しが

より一層あたしの胸を締め付ける


そんなあたしの背中を、雅吉の優しい手が撫で続ける



雅吉「泣くんなら泣く、怒るんなら怒るで、どっちかにしたらどぅでぃ?

まあ、俺ぁどっちかって言やぁ、笑ってんのが一番好きだけどよ!」

にの江「うるさぃよ馬鹿!どっちかって言って、笑ってるはどっちでもなぃだろ!!///」

雅吉「あっはっはっは!そりゃあ違げぇねぇや(笑)」

にの江「耳元で馬鹿笑いすんじゃないょ、全くうるさぃんだからっ!

もうっ………黙って、抱くんならお抱きよっ!!/////」



背中を這い回る雅吉の手をひっ捕まえてあたしが喚くと

雅吉は一瞬驚いた様に目を見開いてから

その見開いた眼を、眩しそうに細めた



雅吉「………言われなくたって、抱いてやらぁ

お前は、俺の………大事な大事な、おっ母だからな」

にの江「おっ母はお止めよ、年寄り臭ぃ////」

雅吉「あっはっはっはっ、バカを言うんじゃねぇや!

こんな色っぺぇ年寄りが居るもんかね!(笑)」

にの江「………………ばか//////」



あたしは、真っ赤になった顔を隠すように

雅吉の広い胸に顔を埋めた



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