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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編








それから

四つ五つ日が経って

また珍しく夕げを家で食べる雅吉に

あたしは先だっての件をそれとなく切り出した



にの江「そう言やぁアンタ、翔吾さんに兄さん呼ばわりされてんだって?」


雅吉「ん?なんでぇ急に」



雅吉は夕げの焼き魚の骨を真剣な顔して取り除きながら言った



にの江「急も何も、お前さんが家に居ないから話す機会が無かっただけだょ」


雅吉「ん~…そぅかぃ…………あぁっ!めんどくせぇや!骨ごといったらぁ!」



雅吉は折角途中まで丹念に骨を取った魚を、取った骨ごと口に放り込んだ



にの江「…全く、堪え性のなぃヒトだょ」


雅吉「へへんっ!魚の骨が刺さっておっちぬことぁねぇからな!」


にの江「……(苦笑)」


雅吉「あぁ、そう言ゃあ、翔の字なぁ」



雅吉は、やっぱり骨が喉に引っかかって気持ち悪いのか

眉間にしわを寄せて、やたらにしぃーしぃーやりながら言った



雅吉「何だか、お智ちゃんと上手く行ってるみたぃだぜぃ?」


にの江「……え?」



(上手く、行ってる…?)



お智ちゃんの素性を知っているあたしは、ちょいと心中複雑な思いが巡った


雅吉は、そんなあたしの様子には気付いていないようで

まるで自分のコトのように嬉しそうに、翔吾さんとお智ちゃんのコトを話し始めた



雅吉「つい昨日翔の字に会った時にも、そりゃあ嬉しそうにお智ちゃんの話しを聞かせてくれてよぅ…」




あらぁ、昨日野暮用を済ました俺が、丁度翔の字の薬種問屋の前を通りかかった時だったなぁ




翔吾「兄さん!雅吉兄さん!!」


雅吉「おぅ、翔の字!景気はどぅでぃ!」


翔吾「ぼちぼちでんなぁ!…って、違いますでしょう!!」


雅吉「あっはっはっはっ!!」


翔吾「いぇ、冗談はさて置き、ちょいと聞いてくれませんか、雅吉兄さん!」


雅吉「んん?なんでぇなんでぇ?」


翔吾「実は、お智ちゃんのコトなんですがね…///」





そう言って、顔をうでたタコみたいにした翔の字が

嬉しそうにお智ちゃんの話を聞かせてくれたんだょ…




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