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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


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お智「ごめん下さい、にの江姉さん」

恋太郎「だぁ、しゃーぃ、にーぇ、ねーたん!」


にの江「はいよ、今行きますよ」





その日は

梅雨の合間の良く晴れた日で


久しぶりのお天道様に、何だかうきうきと気分まで晴れた様な陽気だった



それで、溜まっていた汚れ物を今だとばかりに洗濯して庭に干してしたら

玄関の方からお智ちゃんの声と、可愛い舌っ足らずな声が聞こえて


あたしは手に持っていた洗濯物を縁側に放り投げて、玄関へすっ飛んで行った




にの江「いらっしゃい、お智ちゃんに恋太郎ちゃん」

お智「お邪魔致します、にの江姉さん」

恋太郎「おじゃ、たすたす、にーぇ、ねーたん!」

にの江「はいはい、いらっしゃい(笑)」



お智ちゃんの腕に抱かれた恋太郎ちゃんが

母親の言葉を真似てたどたどしくあたしの名前を呼ぶのを聞いて、自然に顔が綻ぶ


そんなあたしの顔をニコニコしながら見た後、愛おしそうに胸に抱いた我が子を見詰めて

お智ちゃんが言った



お智「この子ったら、まだ良く言葉が解りもしないのに、大人の口真似をして良く喋るんですよ(笑)」

にの江「そりゃあ、利発な証拠さね

流石、伊達に大名家の血を引いてないねぇ」

お智「そんな……利発だと言うなら、きっと翔吾さんに似たのですわ

だって、翔吾さんはとっても頭が良いんですもの

難しい医療書の内容も、沢山あるお薬の名前も、ぜぇんぶ覚えてらっしゃるのよ?

凄いでしょう?///」

にの江「はいはい、全くお智ちゃんときたら、油断してるとすぐに旦那のノロケ話ばかりするんだから(笑)」

お智「だってぇ、本当の事ですもの////」

恋太郎「でちものぉ!」



また母親の口真似をする恋太郎ちゃん

あたしは、そんなちょっとオマセな恋太郎ちゃんの頭を撫でながら言った



にの江「で?今日はどうしたんだぃ?何かあたしに用事があったんじゃなぃのかぃ?」



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