私が嫌いな私なんて○したっていいじゃないか(短編集)
第6章 キスの意味
ーナギ君と付き合ってる軸です。
「渚ー!帰ろうぜー」
「ごめん、杉野。今日日直だから先帰ってていいよ」
「だとよ。早稲田さんはどうする?」
『じゃあ、先に行ってましょうか』
何気ない、いつもの放課後。今日は珍しく杉野さんと帰路に付いた
『初めてじゃないですか?二人で帰るのって』
「まー、いつもは色んな奴とわちゃわちゃしながら帰ってるからなー」
メンツが違うといつもとは違う話ができる。
少し不思議な感覚だ。
「ねえ、ちょっと失礼な事聞くけどさ、
どう?渚とは」
『……まあ、良くも悪くも。今まで通りって感じですかね』
少し声がうつむき加減で聞いた杉野さんに苦笑いで応えた
「ごめん、友達としてちょっと気になっちゃって」
今まで押し付けられた色恋しかしてない私を話題に出すのは少し気が引けたようだ。そういう所が優しいだよね、杉野さんは。
渚さんとお付き合いし出したのは、もうつい最近の事。勿論私の意志で許した。その時の理由は、もはや時間と共に溶け始めているが、
一緒に居たかった。
今はただそれだけで十分だと思う。
「進展とかも何もない感じ?」
『何もない…と言ったら語弊がありますけど…
一緒に居る時間を増やしたり、ちょっとの間だけ手繋いだり…』
「キスとかは?」
『…!
そういう雰囲気に…なったことはありますけど…///』
―――
「遊夢ちゃん…?」
―――
『やっぱりあの時の事がちらついて……
する気になれないっていうか…』
「成程ね」
少し痛ましい記憶だけど、隣で苦笑いを浮かべる彼には楽に話せる気がした。
あの時、というのは茅野さんが触手に侵された時だ。あの手は……止める為には仕方がなかったと思いたいけど……
あの後、暫く眠れなかったな…
厄介なのはそれ以前から、渚さんは私に想いを伝えていたという事。氷のような冷たいアサシンの瞳で、茅野さんに強引に口付ける様は、私の頭で理解することは不可能だった。
今彼はどういう頭でそういう事をしているのだろう。
今では茅野さんとのいざこざも柔らかくなり、優しい彼の腕の中に居られることは、私にとって幸せだった。
けれど、今でも、きっとこれからも、この苦みが頭をよぎるような気がした