第9章 贖罪
沖矢said
ドンドンドンッ
玄関のドアをやたら無闇に叩く音がした。
鈍く激しい音が事の慌ただしさを物語っている。
「すみません!!あの!沖矢さんは居ませんか!!」
焦った声で荒々しく、表札とは関係の無い名前を呼んでいる男の声が聞こえた。
「…どちら様ですか?……!」
ドアを開けて視界に飛び込んできたのは見知らぬ男性よりも、その腕に抱えられた彼女の姿だった。
「彼女が急に倒れて、そのっ…意識を失う直前に“工藤優作の家にいる沖矢さんに”って言うもので。連れて来たんですが、合ってますか?」
「えぇ。ありがとうございます。お預かりしますね。」
彼の腕から彼女を受け取り、横に抱えた。
いつものように苦し気に眠っている。
「…彼女はどこに居ました?」
男性に問いかけた。
「すみません気が動転してしまって。
どこだったか思い出せそうに無いですね。」
「そう、ですか。」
ーーこの男、嘘をついたなーー
最初に見せた動揺が、今の質問には一瞬の揺らぎも無く安定して答えた。更に普通は救助対象を前にすれば脈を測るだろう。何も言わないのは少し妙に感じる。俺らの様な人間の普通は一般人には当てはまらないのかもしれない。息をしていれば普通に感じるのかとも思うが。
「あとはお任せします。僕はこれで。」
「ありがとうございます。もしよろしければ、お名前と連絡先をお伺いしても?」
「…」
「彼女が目覚めた時、お礼を言いたいかと思いまして。」
あくまでも沖矢として話しかけ、彼の情報を聞き出そうと試みる。
「…お大事にとお伝え下さい。」
徹底していた。
だが彼の表情だけは彼女を心配しているものだった。
閉じてしまった玄関ドアに鍵をかけて念の為に彼女が1度も持ってたり付けられたりした事のない盗聴器の存在を調べる。
だがその類は無かった。
彼女を抱え部屋に運ぶ。ベッドに下ろして彼女のポケットに手を入れる。
ーー支給した携帯が無い。壊したかーー
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