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創作小説

第1章 無題


目を開けると見慣れない天井があった。

起き上がろうとすると体に違和感があることに気づいた。手足が動かない。腹部にわずかな圧迫を感じる。なんとか首の力で頭を持ちあげ、視線を自分の体に向けると私は驚愕する。

手足は鎖で拘束され、腰のあたりには大きなベルトが巻かれており、それぞれベッドに固定されていた。

「なんだこれ!?」

そう言おうとした時、声がでないことに気づいた。口は動くのに発声ができないのだ。体の自由も効かず、声も出ない状況にパニックになり、ガタガタとベッドを揺らしながら悶えていると、ガラッとドアが開く音がした。それと同時に慌ただしくナース服を着た女性が数人入ってきたのが見えた。

「金子さん!落ち着いてください!」

「先生呼んできて!」

看護師と思われる女性たちは私の体を押さえつけながら、忙しく指示を出し合っていた。

「離して!」と一生懸命に口を動かし、飛沫を飛ばしながら訴えるが、声の出ない私の要求は通るはずもなく、ただ女性たちの叫び声と鎖のチャリチャリという金属音だけが部屋に響いた。

再びドアが開き、今度はゆっくりと1人の男性が入ってきた。おそらく女性が言っていた“先生”とやらなのだろう。

先程の女性たちとは対照的に静かに口を開く男性に、思わず私の暴れていた体もおとなしくなる。

「おはようございます。ここがどこか分かりますか?」

私は小さく首を横に振った。

「夕べのことは?」と続けた男性に、私は再び首を横に振る。
男性は少し困ったように笑ってこう言った。

「ここは櫻井病院の精神科病棟です。そして僕は医師の櫻井と申します。急にこんなことになってパニックになるのも無理ないね。」

先生の顔を黙って眺めている私を見て、先生は不思議そうに首をかしげて言った。

「もしかして…声が出ない?」

私はその問いかけに激しく頷いた。そんな私を見て先生は、ハハハと声を出して笑った。

「それは尚更焦っちゃうね。でも安心してね、一時的なものだと思うから。何か僕に言いたいことある?紙とペンを準備しようか。」

先生がそう言うと、後ろで2人のやり取りを聞いていた看護師の1人が急いで退室し、再びメモ用紙とペンを持って戻ってきた。

「一旦これも外すね。」と言って、先生は鎖と腰ベルトを手際よく外して私の上体を起こした。


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