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影の花

第9章 大人の事情


「一体なーにしてたらこげなるんじゃ? 瑞は大人しそうな顔して暴れん坊じゃの、将軍じゃの」

「将軍……?」

撫子は先日破壊された障子を修理しながら、首を傾げた。

着流しの袖を大きく捲り、褐色の肩と引き締まった二の腕を晒す。

手馴れた様子で折れた桟を糊でくっつけていく。

瑞は説明する気力もなく、小さくなる。

「本当にすみません……お手数掛けます」

「まあどげでんいいけどのう。ほら、これでよかろ」

撫子は綺麗に障子紙を貼り変えた障子を持ち、立てて見せる。

「ありがとうございます! 本当に助かりましたっ」

「おう。ついでじゃけえ部屋に付けちゃるぞ」

「何から何まで……それではこちら持ちますね」

瑞は撫子と部屋に戻り、新しく障子を入れた。

瑞は満足気に障子を見る。

「やっぱり障子がないとですね」

「こげなことそうそうな……っちこともないか。ここの奴らはよー障子破ったり襖外したりするけの」

「それは小さい頃の話でしょう?」

「いんや今もじゃ」

「今も!?」

ふと瑞が何かを思いつき、手を打った。

撫子にほほ笑みかける。

「撫子さん、宜しければ一緒にお茶でも飲みませんか。お世話になったので、私に淹れさせてください」

「そんじゃお言葉に甘えようかの」

撫子もにこりと歯を見せて笑った。

「瑞の淹れる茶は美味いのう……」

「恐縮です」

二人で温かいお茶を啜る。

瑞は一息つき、先程の撫子の様子を思い浮かべながら口を開いた。

「それにしても撫子さんは器用ですね。あんなに手仕事が上手とは知りませんでした」

手際よく障子を運び、テキパキと動く姿は見事な物だった。

「ほうかあ? ……ほんなら瑞、ちょっと来てみい」

撫子は嬉しそうに表情を弛め、瑞をちょいちょいと手招きする。

二人で廊下に出ると、撫子が障子窓を開ける。

中庭を見下ろし、落縁を指さした。

「あれわしが直したんじゃ」

瑞は身を乗り出す。
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