第8章 *File.8*
「あ!こないだ泣いてたお姉さんだ」
「!!」
閉店間際のポアロにお邪魔したら、カウンターの奥の席には一人ポツンと男の子が座っていた。
まさにこの世界の主人公、俺は江戸川コナン、探偵さ!が!
怪盗キッドに会ったぐらいだから何時かはと思ってたけど、あの時、此処にいたのね?
まさかの展開だわ!
「コナン君?」
「僕、あれからずっと気になってたんだけど…」
「「?」」
一体、何が?
私とゼロは視線を合わせて、首を傾げた。
「あなたは安室さんが好き、なの?」
「自己紹介がまだだったわね。私は望月雪乃です。宜しくね、コナン君」
「ちなみに年齢は、僕の一つ上ですよ」
「ちょっと!普通そこは聞かれるまで黙っとくモンでしょ!」
「えっ?」
ゼロにウインクをされたコナン君が、見事に固まった。
「くっくく」
「!」
キッと睨めば、楽しそうに笑ってるし!
「もっと若いかと思った」
「うんうん。素直ないい子」
思わず、頭を撫でてしまう。
「で、好き?」
「……なんで?」
「なんとなく?」
いや、その目はかなーり疑ってます?
「ナイショだけど、私にはカレシいるよ?」
「えっ?」
「子供相手に、貴女は何を言ってるんですか?」
いや、中身は立派な高校生だから!
アナタも散々疑ってるでしょ!
「安室さん、じゃなくて?」
「うん。じゃなくて、安室さんの親友」
「だったら、どうして泣いてたの?」
「コナン君が理由を知って、何かいいことある?」
「……あの時の涙がとてもキレイだった、から、忘れられなくて」
「そっか。有難う」
視線と声のトーンを落としたけど、返事はちゃんと聞こえたよ。
「カレシとね、訳あって二年半も逢ってなくて。安室さんに会ったら、みんなで過ごした楽しい時間を思い出したの。ずっと思い出さないように、我慢してたから」
「だから、安室さんとも会わないようにしてたってこと?」
「うん」
私は弱い人間、だから。
そうするしか、術がなくて。
それにまだ黒の組織は存在しているから、連絡一つすらしてなかったの。
何よりそれは、私の身の安全を少しでも確保するためなのを、私自身が分かっていたから。
「貴女の我慢強さには、誰も敵いませんよ」
「褒めてないし」
散々迷惑掛けたから、強くは言えませんが。