第9章 妖狐の覚醒
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夕方になり、杏寿郎は隊服と羽織を身に纏うと、いつものように玄関の前で見送りをしてくれる百合と千寿郎を見た。
「では行ってくる!」
カッカッ!!
千寿郎は杏寿郎の背に向かって切り火をした。
「兄上、武運長久を!!」
「杏寿郎さん、いってらっしゃいませ。」
「あぁ!留守を頼む!」
そう言って門から出て路を曲がった杏寿郎に一瞬、雲から顔をだした西日が強くあたる。
「あっ…待って!!」
その姿があまりにも鮮烈で百合は思わず駆け出した。
「どうした?」
不思議そうに振り返る杏寿郎に百合は言いようのない胸騒ぎを覚え、自分の胸元から硝子玉の首飾りを取り出した。
「これをお持ちになって下さい…いつも杏寿郎さんの無事を願い、気持ちを込めております。どうか私の代わりにお供させて下さい。」
真に迫った目をした百合に、杏寿郎は素直にそれを受け取った。
「ありがとう。必ずこれを君に返すために戻ろう!では!」
杏寿郎は片手を上げ、百合に背を向けると羽織をはためかせ任務へと向かった。百合は杏寿郎の背が見えなくなるまでずっとその場を動けずにいた。
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