第8章 夢のその先へ 【R18】
ガタンガタン…ガタン…ーーー
「……っ杏寿郎さん!!」
百合は最近とある夢に悩まされていた。
目が覚めると内容は忘れてしまっているが、激しい焦燥と胸を締め付けるような痛みは百合に何かを知らせているようだった。
「…どうか…杏寿郎さんが無事に帰って来ますように…」
首にかけた硝子玉を握り、百合は毎晩祈った。
まだ夜が明けていない部屋は薄暗く、百合は障子から透ける月の明かりだけを頼りに襖を明けた。
真っ暗な廊下を通り、目的の部屋までたどり着くと、主の居ないガランとしたら部屋の襖を開けた。
最近、毎晩のようにうなされて目が覚める百合は、どうしてもすぐに眠る気になれず、勝手に入ってはならないと思いつつも杏寿郎の部屋で一晩を明かすようになっていた。
布団なんてもちろん敷かれてはいないので、ただ畳の上に寝転がるだけだが、それでも自分の部屋に一人で居るよりは安らぎがあった。
「杏寿郎さん…」
今日も目尻を涙で濡らし、百合は硝子玉を握りしめた。
ーーーーーーーーーー。
部屋に朝陽が差し込み、百合は目を開けた。硬い畳の上で寝ていたので体はお世辞にもスッキリとはしていなかったが、朝餉を作るために体を起こし、部屋へと着替えにいく。
ーーーーーーーー。
「おはようございます!」
千寿郎は元気よく台所にいる百合に挨拶をした。
「千寿郎さん、おはようございます。」
「兄上は、今朝も帰ってこられなかったのですね。」
千寿郎がしょんぼりとすると、百合も不安で瞳が揺れた。
「千寿郎、百合、おはよう。朝から辛気くさい顔するんじゃない。もし何かあればすぐに鎹鴉が来る。何も便りが無いってことは元気な証拠だ。」
槇寿郎は二人の肩をポンと叩くと、千寿郎と百合は顔をあげた。
「今日もたらふく隊士達が集まる。百合、頼んだぞ!」
「はい!あっ、そうだ…もうすぐお米がきれそうなんです。千寿郎さん、学校が終わったら買い物についてきて貰えませんか?」
「はい!もちろんです!」
「元気出てきたな!さっ、朝餉にするぞ!」