第2章 春になるまで
フワフワとしたものが頬をくすぐり、杏寿郎が目を覚ますと、座布団に置いたはずの狐は顔のすぐ側で丸くなって眠っていた。
「お前か。」
杏寿郎は仰向けだった体勢を右へ向け、狐の頭や首元を指でくすぐる。
気持ちよさそうに目をつむる狐を見て、杏寿郎も目を細めた。
「不思議だな。お前をだんだん離したくなくなってきた。」
「兄上?起きられたのですか?」襖の奥で声がした。
「千寿郎、あぁ今起きた。お前に見せたいものがあるから来なさい」
布団から体を起こし、杏寿郎は千寿郎を呼んだ。
「はい!失礼します!」
襖を開け、入ってきた千寿郎は杏寿郎の横で体を丸めた狐に目を輝かせた。
狐も目を覚ましたようで、じっと千寿郎の反応を伺っているようだった。
「わぁ!!なんて可愛らしい!どうされたのですか?」
杏寿郎は膝歩きで近寄り、狐のすぐそばまで来た。
「昨晩、山の中で弱っているこいつを見つけてな、あまりに不憫だったので連れ帰った。」
千寿郎はおずおずと、狐の体に触れてみる。
「ふわふわですね!そして、とても綺麗な毛の色ですね!」
すっかり千寿郎にも警戒心を解いた狐は、こん!と鳴いた。
「手負いだったので保護したが、元気になったら外へ離すつもりだ。それまでは、うちにおこうと思っているから俺の居ない間の世話を千寿郎に頼んでもいいか?」
「そうですか…いつかはお別れになってしまうんですね。」
嬉々としていた千寿郎は、その言葉で眉をハの字にした。
「そうしょげるな。離すのは春になってからだ。この冬の寒空の中に離すのは忍びないからな。」
「そうですが…では、その間にしっかりと栄養をつけて元気にしなくてなりませんね!」
「うむ!その意気だ!」
「兄上、ところでこの子の名はなんですか?」