第1章 雪降る夜に
しんしんと降る雪に、辺りは覆いつくされていた。
周りには枯れた木々が枝に雪を積もらせ、明かりもなく真っ暗な山の静寂があるだけだった。
そこに横たわる一匹の小さな狐は、息も絶え絶えに夢をみていた。
昔は良かった…人々の暮らしに触れ、善良な者からの信仰心の様なものでこの辺りの地を豊かにするのに尽力した。
しかし人の心は移ろい易いもの。
騙し、命を奪い、私腹を肥やす人間の狡猾さに触れ、その狐は自分の無力感に打ちひしがれていた。
「おい!!あれ見ろよ!」
天命を終えようとしていた狐の元に数人の人間が集まる。
「なんだこの狐?変わった毛色をしてるな?」
透き通るような輝く白い体毛に包まれた狐に男達は色めきだつ。
「この狐の毛皮を売ったら、いい金になるんじゃないか?」
金欲にまみれた男達の手に抱き抱えられた狐は、この世に落胆し最後の時を待った。
その時、
「ううぁぁああぁ!!なんだあれは…!」
男達の声に、うっすらと目を開けた狐の目に、異形な者の姿が写った。
うなり声をあげ、口からは絶えず涎がながれ、焦点の遇わない目…一目で分かる悪鬼が男達に襲いかかろうとしていた。
先ほどまで狐の美しさに興奮していた男達は、腰を抜かし逃げる事もままならない状態。
狐は最後の力を振り絞り、男達の手から逃れると、まるで庇うようにして鬼と男達の間に入った。
コォーン…狐が一鳴きした刹那、狐の体は閃光し、辺りはまるで昼間の様な明るさになった。
鬼はその光から逃れる様に木の後ろへと退いたが、それは一瞬の輝きで、すぐさま鬼はまた牙を剥き出しに襲いかかってくる。
力を使い果たした狐はパタリとその場に倒れ、雪の上で動かなくなった。
「炎の呼吸壱ノ型!不知火!!」
声と共に現れた炎に、鬼は断末魔の叫びをあげ、まるで灰が風で吹き飛ぶように消えていった。