第4章 曖昧な関係は終着へ
最近よくある事で、独歩にドキドキさせられる事が増えてきている気がする。
仕事中までこう何度もドキリとさせられるのは、少し困ってしまう。
「褒めても何も出ないよ」
言って笑うと、唇が塞がれる。
こうして唇、体を重ねる度に、どんどん独歩が自分の中に刻まれて行くような感覚がしてくる。
こんな風に絆されるみたいなのは、いかがなものかと思う。
それでも、何がどうと言うのではないけど、元々好意的だったのもあって、独歩に惹かれているのは事実だ。
けれど、気になるのは独歩が私をどういう気持ちで抱いているのかだ。
好かれているのは分かる。ただ、それが単純な好意なのか、一時的な欲なのか。
変な方向へ考えを巡らせるのを諦め、独歩の与える快感に身を委ねる事にした。
翌日、私は会議の後、外回りをし終えて帰ってくると、廊下で独歩と女性社員が二人で話しているのを見つけて、何故か物陰に隠れる。
私が隠れる理由はないのに、咄嗟に隠れてしまい、出ていくタイミングを失った。
仕方なく、二人が話終えるのを待つ事にする。観葉植物の話をしているのを、聞きながら自分は一体何をしているのかと、少し笑ってしまう。
「そうだっ! 観音坂さん明日の飲み会って来られます? あ、もしかして、彼女さんとかと予定あったりします?」
「えっ!? あ、いや、その、残業さえなかったら、予定は、ないけど……それと俺なんかに彼女なんて、いないし……」
これはなかなか辛いものがある。
彼とキスをして体を重ねて甘い時間を過ごすのに、彼女なんかじゃなくて。
改めて分からされたみたいで、胸が締め付けられる。
彼にとって自分は何でもないんだと思い知らされ、自分が思ってる以上に、ショックを受けている事に笑ってしまう。
「何やってんだろ、私……」
曖昧で意味のない関係は終わらせないといけない。せっかく独歩が恋愛出来るチャンスを、私が奪うのは違うから。
深呼吸して、物陰から出ていって、楽しそうに話す二人の横を通り過ぎる。
「あ、先輩、お疲れ様です」
「お、おつ、かれ……」
「うん、お疲れ様」
挨拶をされ、それに笑って返す。
彼がこちらを見ていても、私が彼を見る事はなかった。
私は上手く笑えていただろうか。