第1章 光と影
また背中が曲がってる。
背中を叩きたい衝動に駆られ、グッと堪えて軽く叩く。
「どーっぽっ!」
「ひぃっ!?」
毎度の事なのに、いい加減慣れて欲しい。
「そんな毎回ビビる?」
「だ、誰だって突然来られたら驚くだろっ!?」
「ったく、ほんとにヘタレなんだから」
「どうせ俺なんてヘタレで無能で約立たずで……」
また始まった。
彼は何でこうも卑屈で自信がないのか。
「いつも言ってるでしょ? 独歩は自分が思ってるほど酷くないって」
「いいよ別に気を使ってれなくても……自分で自分の事くらいは理解してるし……」
グダグダとネガティブ発言を口にし始めて止まらない独歩の口に、手を近づける。
「どうせ俺なんっ……もごっ!」
「はい、後でゆっくり聞いてあげるから、とりあえずそれ食べて仕事仕事っ! 頼りにしてるからさっ!」
「ぐえっ……あ、りがと……」
口に飴玉を入れてやり、先程より少しだけ強めに背を叩くと、控え目な声でお礼が帰ってくる。
ほんとにこういうとこは律儀で、彼のいい所だ。
基本、気弱でイエスマンなせいで課長にいいように扱われているからか、マイナス思考と恨み言が多いネガティブ男子だけど、常に周りをちゃんと見てるし、何処か抜けてるけど一生懸命だからつい構いたくなる。
目の下に出来てる酷い隈も、愛着が湧いてきていた。
お昼休みに自販機に向かう途中、チラリと電話対応をしている彼を見る。
電話なのに、必死に頭を下げるのを見て、クスリと笑う。
「何か小動物みたい……可愛い」
呟いた自分の言葉にハッとする。
何を言ってるんだ、私は。
気を取り直して、自販機でコーヒーが出来るのを待っていると、女子社員の会話が聞こえる。
「こないだの合コン最悪でさぁ」
「えー、金持ちだけのやつ?」
「金あっても、あれはないわ。話とかマジでちょーつまんなくてさー」
「この会社にもたいした男いないしね」
「でも高田さんとか石島さん辺りはよくない?」
「分かるっ! 仕事出来るし、結構格好いいよねー」
三人でワイワイ話すのをただ聞いていると、コーヒーが出来上がりそれに手を伸ばす。
「あの人は? ほら、営業にいるじゃん、影薄いけどちょっと可愛い、名前何だっけ……観音?」
「あー……」