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【鬼滅の刃】水鏡之人【錆兎】

第9章 水際の攻防





でも一度溢れ出てしまったものは、今更止めることが出来ず、次々と頬を伝ってこぼれ落ちていく。

「うっ…、ひっ…く…、」

堪えきれない嗚咽が小さく漏れる。

すると突然、まるでその涙を拭うように、優しい温もりが頬を掠めた。見ると、花子が優しく頭を擦り寄せていた。

「花子、慰めてくれてるの?」

「ソウヨ、本当二私ノ御主人様ハ、不器用ナンダカラ、」

「ふふ、心配掛けてごめんね。」

音羽は涙に濡れたくしゃくしゃの顔で優しく笑い掛けると、涙で濡れて毛羽ってしまった花子の頭を撫で付けるように人差し指で優しく擦ってやった。




そんな時だった。少し遠くの空から鴉の鳴き声が聞こえてきた。音羽が顔を上げると、一匹の鴉がこちらへ向かってきた。

「誉?」

その鴉は、錆兎の鎹鴉の誉だった。

音羽が手を掲げると、誉はその腕に停まった。その足元を見れば、足首に括られた「手紙」のような物が目に入り、少しだけ表情を曇らせた。

だって、錆兎からの手紙に間違いない。

自分の勝手な振る舞いに怒って、苦情の手紙か、もしくは……、



別れを切り出す手紙かもしれない。



音羽は少し躊躇った後、誉を近くの小枝に移して、その手紙を脚から外した。そして、速る鼓動を抑えながら、ゆっくりその紙を広げた。









『音羽へ




 好きだ

 お前に会いたい




              錆兎』






読んだ瞬間、音羽の身体が熱を帯びたように熱くなった。

「ずるい……」

音羽は錆兎の手紙を、胸に強く抱きしめた。

「こんなの…、もう逃げることなんて…出来ないじゃない」

再び目に涙が溢れてきて、音羽はそれを思いっきり、羽織の裾でごしごしと拭った。



そして覚悟を決めたように頷くと、鞄の中から紙と筆を取り出した。








ー 水際の攻防 完
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