第1章 赤ずきん
昔々佐野家に、赤ずきんのよく似合うマイキーがお母さんと二人で暮らしていました。
ある日お母さんから葡萄酒、チーズ、木苺のパイの入ったかごを渡され、病気のおじいさんに届けるよう頼まれます。森には思わぬ危険が潜んでいるので、充分気をつけなさいと注意もされました。
忙しいお母さんのために今日は一人で行くことになったマイキー。早速、森の向こうにある万作おじいさんの家へと出発しました。
その道中、森の中でマイキーは幼なじみの場地に会いました。
「よう、マイキー。おつかいか?どこに行くんだ?」
場地とはお互いよく知った間柄で、マイキーは彼に心を許していました。
「じいちゃんちだ。葡萄酒とパイを届けにな」
「へえ…だったら近くの花畑に花が咲いてたから、摘んでいったら喜ぶんじゃねえか?」
お母さんに寄り道してはいけませんと言われていましたが、せっかくの場地の厚意もありマイキーは花畑へ行くことにしました。
「ちょっと寄ってみるか…ありがとな、場地」
マイキーを見送り一人残った場地は、薄く不気味な笑みを浮かべました。
「…フフ……ハハハッ…」
緩慢な動作で片手を顔へやり隠していましたが、堪えきれずさも可笑しそうに笑い始めます。声が漏れてしまうほど気分が高揚していました。
花畑へ誘導しマイキーの到着を遅らせた隙に、場地は万作の家へ先回りします。
「おじいさん、赤ずきんです。開けてください」
そこで場地はなんと、赤ずきんのフリをして家のドアへ近付きました。
「ん?お前さん本当に赤ずきんか?」
中から万作のいぶかしむような返答が聞こえます。しびれを切らした場地は声を荒げました。
「いいからさっさと開けろよジジイ」
「おお威勢がいいな、赤ずきんのようだ。待ってろ今開ける」
おしとやかな雰囲気より元気いっぱいな態度のほうが赤ずきんっぽく見られるようでした。
その時です。場地は大きくて凶暴な狼の姿に豹変し、赤ずきんだと騙されて出てきた万作を飲み込んでしまいました。そう、場地の正体は恐ろしい狼だったのです。