第16章 初恋　中編【伊黒小芭内】

「ただ本当に陽華のこと、何とも思ってねェーのか？って思ってよォ」

小芭内は弁当に向けようとしてた視線を上げて、実弥の顔を見た。

「何とも…とは、どういう意味だ」

「いや…わかんだろ？あんなかわいこﾁｬﾝに言い寄られて、何とも思わねェーのか？って聞いてんだよ」

「……………」

何とも思ってないと突っぱねることは出来るが、変なところで感の鋭いこの親友は、きっともう全てを察しているのだろう。

小芭内は軽く「ふぅ…」と息を吐いた。

「確かに、何とも思っていないと言えば嘘になる。氷渡……アイツの姿が視線に入るだけで胸の奥が熱くなったり、アイツの言動や微笑み一つで、気分が落ち着かなくなったり、一人で家にいる時につい考えてしまったり、夢にまで出てくる……くらいには…気になっている」

「ソレ、もう完璧に好きじゃねェかァ？」

実弥が呆れたように顔をヒクつかせて小さく呟くと、小芭内は否定するようにギロリと実弥を睨みつけた。

「それは違う。俺はそういうことに対して免疫がないから、動揺して心が浮ついてしまっているだけだ。それに俺が気になっていたとしても、アイツの本心はどうだかわからない。今はアイツの周りいる男どもとは、少し毛色の違う俺に好奇心から興味を抱いて付き纏ってるだけで、そんな興味など、すぐに失って去って行くだろう。女なんて生き物は所詮そんなものだ」

小芭内が鼻をフンッと鳴らすと、実弥は「はぁ……」とため息をついた。

（いや…興味を抱いて、もう数年は経ってんだけどなァ……）

これも全て、小芭内が陽華を思い出してやらないからだと、実弥が呆れた顔を浮かべる。

教えてやってもいいが、なぜか陽華からは黙っててくれとキツく言われてる。まぁ、自力で思い出して欲しい気持ちもあるんだろうが……

実美は再度、深いため息をついた。