第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
自分らが知ってる部長は度を越えた女嫌いのはずで、あんな美少女の知り合いがいるはずがないのだが?
聞いてみたい気もするが、可愛い美少女を見詰める部長の目が、恐ろしく不機嫌で、声を掛けられる状態じゃないことだけはわかる。
部員達は疑問を飲み込むと、ペットボトルロケットに向かい、全集中を決めた。
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部活を終え、学園を出て並木道を歩いていると、「実験の邪魔だから、消えろ」と、最終的に追い出したはずの陽華が、小芭内を待ち伏せしていた。
すぐに何も気づいてない様子で足早に通り過ぎる。
しかし陽華は構わずにその後ろに付いてきた。
並木道を超えた先、キメツ商店街の入口までたどり着つと、小芭内はうんざりした顔で振り返った。
「付いて来るなと言っている。」
「付いてきたわけじゃありません。私の家もこっちなんです♡」
「嘘をつくなっ!」
本当に可笑しな女だ。こんな何も取り柄のない男をからかって、追いかけ回して、一体何の得があるというのか。
こうなれば完全に興味ないふりして無視し、女を諦めさせるしかない。
そう思い、前を向く。するとその視線の先に、ある人物が立っていた。今のこの状況で最も会いたくない人物。
そいつは小芭内と陽華を交互に見ると、近づいてきた。
「伊黒ォ……」
「し、不死川……、何でお前がここに……バイトはどうした!?」
「今日は妹の…寿美の誕生日なんだよ。だから早めに上げて貰ったんだがァ……」
そう言って小芭内達の前に仁王立ちする実弥の手にケーキのBOXが握られていた。
「そ、そうか。それはめでたいな、寿美ちゃんにおめでとうと伝えてくれ。じゃあお前は、早く帰って………」
なんとか話しを逸らそうとするが、実弥の目線はすでに陽華を捕らえていて、離さない。