第3章 先輩【※冨岡義勇】
「洗い物してたら、遅くなっちゃった!」
部室から、少し暗くなった外に出た。暗くなると、学校周辺は人気がなくなり、女子高生一人は危険になる。
早く帰らなくてはと思い、陽華は足早に学校内を歩いてた。すると、道場の方から声が聞こえて、立ち止まった。
「あ、電気が付いてる。」
陽華には、見なくても誰がいるのか、わかっていた。道場に近づき、扉を少し開けて、中を様子を覗き見る。
すると、思った通り、冨岡義勇が一人で稽古していた。ああやって、部活中はサボり、部活時間が終わると、一人で稽古を始めるのだ。
相手がいたほうが稽古になるだろう。最初の頃、見かけた時に陽華はそう思った。しかし、何回か見ているうちにわかった。冨岡義勇の頭の中には、きちんとした相手がいるのだ。
今までに戦ってきて、破れた相手、強かった相手の動きを頭の中にインプットし、それを相手に戦っている。
だから、さながら本当の試合のような迫力を見せる時があった。
陽華は、暫くの間その稽古の様子を真剣な表情で見ると、扉を静かに締めた。
そして、近くの自販機まで行くと、ミネラルウォーターを買って、道場に戻った。