第7章 夢の中の君ー実弥sideー
俺が、行方不明事件の街を偵察のため歩いていると、見たことのある花柄の着物を見つけた。
もしやと思い近づいてみると、予想通り花耶だった。
俺が動くと聞きつけて、隠しも待機してのか。
花耶の周りをよく見てみるが、1人のようだ。
(ンな、物騒な街で何してやがる。)
俺は放っておけず、店先で何やら品物を必死に見つめる花耶に近づいた。
花耶が、見ていたのは、簪。
欲しいのか聞くと、遠慮なのかなんなのか黙ったまんまだが、目は口よりもモノを言う。
俺は、店員を呼びとめ、お代を出しながら、
「最近、この辺りが物騒なようだが、何かご存知ですか?」
と怪しまれないように、珍しく丁寧な口調で聞く。そして、花耶の方を見ながら、
「心配でして。」
と付け加えると、店員は、街はずれの方で行方知れずになるものが増えていると教えてくれた。
まだ昼間だが花耶を一人で歩かせたくない俺は、怪しまれたくないからと理由をつけて一緒に歩くことにした。どうせ昼間のうちにある程度、街の中を把握したい。
もし、鬼の居場所が、見つかれば隠したちを呼びに花耶だけ帰せばいい。
怪しまれないために恋人設定を付け足すと、花耶は、“不死川サン”と呼んでくる。昔、助けた時に呼ばれたその呼び方が、懐かしい。本人は覚えてなさそうだか、花耶なりの距離の近さの表現らしい。
“実弥さん”に直させようかとも思ったが、いつもより柔らかな口調で微笑まれたら、そんなことどうでも良くなった。
その後、花耶は、店員に勧められて簪をさし戻ってくる。
また、いつもより柔らかな口調で、
「お待たせしました。」
と言われれば自分から提案した恋人設定が恥ずかしい。
そんなことを悟られないように必死で照れ隠しをしながら、花耶の顔を覗き込み、
「似合ってる。」
とやり返せば花耶は、演技だと思ったのか間に受けまいと必死に照れた表情を隠そうとしていた。
(確かに恋人設定を利用して、いつもじゃやらねぇような大胆なことをしたが、本心だァ。演技じゃねぇ。)