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呪術夢短編集

第1章 愛玩動物 (両面宿儺 R-15)


 ぴちゃぴちゃという湿った水音がするのを虎杖悠仁は感じた。音の元は自分の指先からしているようだ。暗澹とする意識の中、ぼんやりと自身の目を開けば、蕩けた顔で熱心に自分の指を舐る同級生の姿がある。
 真上、何してんだ。虎杖がそう言おうとするも、自身の声帯は疎か口元すら動かすことが出来ない。一体どういうことだと、瞬間混乱を覚えるもすぐに心当たりが浮かんだ。どういう訳だか、自分の中に眠る呪わしき存在と主導権が入れ替わってしまっているらしい。

「小夜子、もっと丹念に舐めろ。お前が付けてしまった傷なのだからなあ?」

 ひどく邪悪で、だが何処となく甘さと色気を含んだ低い男の声が、虎杖の代わりにその声帯を震わせた。明らかに自分のものではない声…己の裡に宿る邪悪の権現、両面宿儺の声である。あらゆる生き物が恐怖し、ひれ伏してしまうであろう男に小夜子と呼ばれた少女は、恐れ慄くどころか恍惚とした顔していた。彼女は唇の端から銀の糸を垂らしつつ「はい。申し訳ありません、宿儺様」と答えると、血の滲む彼の人差し指を咥えこむ。
 柔らかな少女の唇に無骨な男の指が、ちゅぷりと音を立てて沈んでいく。その光景が酷く卑猥に見え、虎杖は思わず目を逸しそうになった。しかし、今彼の体は彼の意思で動かす事ができない。宿儺がこの光景をくつくつと喉を鳴らしながら笑って見ている限り、彼もまた直視せざるを得なかった。虎杖がそう悶々としてる間にも、目の前の同級生は明らかに雌の顔をして緩やかに頭を動かしていく。そんな姿が、一度興味本位で見たことのある、あのビデオのワンシーンと重なった。正直どうにかなってしまいそうだ。見えるし聞こえるが、感覚が伝わってこないのが却って想像力を掻き立ててしまい、彼のそんな心情に拍車を掛けてくる。もうやめてくれと心の中で叫んでみた。
 しかし、彼のそんな心情もかの男には関係ない。それどころか、そんな少年の叫びを踏みにじるかのように、宿儺は彼の指で乙女の柔らかな粘膜を掻き回し、嬲っていく。彼女の唇の端から、甘ったるい喘ぎにも似た声とともに彼の血と唾液の混ざったものが伝って落ちていった。“男”の喉がまだ愉しげにくつくつと動くのがわかる。
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