第60章 初めての宴

「杏寿郎さん。」


菫は首を横に振りながら近寄る。


「少し懐かしいなと思っていただけです。」


杏寿郎はそう答えた菫の表情を大きな目で観察するように見つめ、そしてその気持ちを察した。


杏「…明後日、煉獄家へ来た際に炊事場も見ると良い！此処に随分と似た造りだぞ！」


そう言うと太陽の様な笑みを浮かべて菫を撫でる。

菫はその手のひらの熱を感じながら眉尻を下げて微笑んだ。


「はい。今は千寿郎さんが守っている場所ですね。」


柔らかい表情が戻ったのを確認すると杏寿郎は思わず抱き寄せそうになった。


しかし、今は常に人目がある。
みだりに触れることは叶わない。


杏「……うむ！千寿郎と言えば君と仲良くなりたいと言っていたぞ！」


一度中途半端に上がった腕を見た角田と権田は早くも見張りをやめたくなった。

抱き締める以上の事をしそうにない二人をそっとしておいてやりたくなった。


しかし職務中の重國は恐ろしい程に厳格であった為、二人は項垂れながらも命令を守る他なかったのだ。