第58章 休養―其の弐

(それなのに横向きに寝ていらっしゃる…直した方が良いのかしら…。)


菫はそう思うと杏寿郎の肩に恐る恐る触れる。

すると思ったよりも簡単に体は動いた。


菫は優しく両肩を掴みながらゆっくりと杏寿郎を仰向けにさせた。

そしてほっと息を吐こうとした時、心臓が止まった。


杏寿郎が目を薄く開いたからだ。


杏「…………。」


杏寿郎は両肩を掴んで顔を覗き込むのにどんな理由があるのかを考えたが、現実的な事は何も思い付かずに固まった。


「…………。」


一方菫は、杏寿郎の目がぱっちりと開いてしまった事と、それなのに何も言わない事に動揺していた。


(と、取り敢えず手を離し、)


そう思った時、菫の心臓が再び止まった。

杏寿郎が菫の手を肩に留めるように掴んだからだ。


「あの、」


杏寿郎は菫がどうして自身に覆い被さっていたのかは分からなかったが、口付けようとしていた訳でない事は分かっていた。

だが、きちんと二人切りになれたのは久し振りで、そして傷が癒えれば今度はしょっちゅう会う事も叶わないかも知れない。


杏寿郎は純粋な自分の欲を優先して行動していた。