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【明日方舟】すれ違い×一目惚れ 【ジェイ】

第3章 言葉の意味


 朝市で仕入れた魚に刃を入れる。するすると魚はバラされ三枚に下ろされる。いつものように包丁を動かせばいつも通りの刺身の盛り合わせが完成した。
「……作りすぎたか」
 目の前に広がる光景に思わず頭を抱える。一体誰が食べるんだという量の刺身の盛り合わせが並んでいた。……当然、作ったのは俺だ。
「おや、これは随分と作りましたね。宴会でもあるんですか?」
 からかうような声が聞こえてきて俯いていた顔を上げる。そこには楽しそうな顔をしたワイフーがニヤニヤしながら俺を見ていた。
「……何の用だ」
「何の用とは心外ですね。あなたがボーッとした様子でお刺身を量産していたので心配して見に来たんですよ」
「…………。」
 そう言われて俺は黙るしかなかった。様子がおかしいのも量産したのも事実だからだ。
「まぁ、何でもいいだろ……」
「減らすのに協力しましょうか?」
「金は払えよ」
「当然です」
 嫌味半分でそういえば、ワイフーは分かっていますと言う顔で金を置くと遠慮なく刺身を食べ始めた。残った分を見てため息がこぼれる。……本当、何やってんだ俺は。
「あ、お疲れ様です……」
「あぁ、お疲れ様ですクロさん」
 聞き覚えのある小さく涼やかな声が聞こえて思わず顔を上げる。黒髪の小さな少女がいつの間にか近くに来ていた。ワイフーが嬉しそうに彼女を迎える。
「お昼の休憩ですか?」
「はい。今日は余裕があるから早めに休憩に入ってと言われまして」
「そうだったんですね。クロさんは真面目で働き者で助かるってみんな言ってますよ」
「い、いえ、そんな、私はこれくらいしか出来ないから……」
「仲が良いんすね」
 思わず言葉が口をついてでた。どこか非難するような硬い声になっちまった。バツが悪くて顔を逸らせばニヤけた顔が俺を見ていた。自分の眉間にシワが寄るのを感じる。
「は、はい。ワイフーさんには良くしていただいてます」
 静かに争う俺たちに気づかず、クロは少しはにかむように笑った。照れたようなその顔に目が釘付けになる。……彼女はこんな風にも笑えるのか。俺の前ではいつも困ったような顔をしてるから気づかなかった。
 妙な違和感が胸を襲う。できるだけ表に出さないように「そうなんすね」と言うのが精一杯だった。
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