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3月9日  【A3】

第4章 寒緋桜


 ー…もしもし、佐久間か。

 「…はい。」

 やけに掠れた声は疲れが浮かんでる。

 『わるかったな、中途半端な形になってしまって。』

 そんなこと言われたら、何もいえなくなってしまう。

 「もう、いいんですか、」



 『…あぁ。』



 「なら…どうして、わざわざ電話を?

 支配人から聞きました、取り壊しのことも。
 前に、まだ期間はあるって…言ったじゃないですか、嘘だったんですか?」
 『関係のないお前を、巻き込んでしまったからな、直接伝えるべきかと思ったんだ。

あと、弟のことだが…申し訳ない、力になれそうにない』
 
 「…っ、」

 さぁっと血の気がひいてくのがわかる。

 どうすれば、私…何を言えば…っ、


 『…悪かったな。すまん、仕事の電話がはいっちまった。また改めて連絡する、』


 亡くした言葉を考えてるうちに、冷たい電子音が鳴って、現実を知らせる。

 …あれ、私この感じ知ってる。

 普通にあったものが、突然なくなるこの感覚を…。


ーーーーーー
ーーーー


 …違うな、普通にあったわけじゃない。

 支配人が私を拾ってくれて、左京さんが仕事を紹介してくれて、もともと危ういってわかっていた足元が目に見えて崩れ始めただけだ。

 どうすればいいんだろう、どうしようもできないの…?

 ここで、いろんな人が笑って過ごすところすら見られないままで、終わってしまうの?

 「っ、」

 泣いちゃダメだ、だってまだ何も出来てない。

 弟を探すことを、手伝ってもらえなくなったことだけじゃない。


 かつて笑顔の花が、満開に咲いていたこの場所を、その姿を目に焼き付けないままに、何も始まらないままに、終わらせるのが悔しいんだ。

 悲しいんだ。

 亀吉や支配人や、左京さんだって、どんなに短い期間だろうがなんだろうが、ここで過ごすうちにもう大好きになったんだから、どうしようもない。

 「支配人、私劇団員さがしてきます!」

 「え?!今からですか?!」

 「はい!夕飯までには1人でも見つけて、戻ってきます!まだ、諦めるわけにはいかないから!」

 支配人が私を、引き止める声すら無視して飛び出す。











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