第1章 プロローグ/公安の彼ら
「取返しのつかないことをしたと…本当に思っているんだ」
「違うんだ!何度も言ってるけど、零にそう思っていて欲しくない」
――薬を飲まされたのはオレのせいで、零は何も悪くない、なのに、なのに、どうして…
やるせない気持ちが拳へと伝わり、硬く震える
「…叶音、こっちにおいで。少し休憩しよう」
元の名前を呼ばれ、ハッとする
降谷は座る自分の横をポンポンと叩きリュウを呼び、気まずそうな顔で隣に座る彼に、自販機で買ったカフェオレを渡した
リュウはそれを喉に通し、一呼吸置くと、零を見上げる様に向き直し、話始める
「あのね、いつも言ってるけど、毒薬を飲んだ時に零が解毒剤を飲ませてくれなかったら、オレはもしかしたら死んでたかもしれない。体が縮んでも、零と一緒にいられるならオレはそれでいいんだ」
だから零が気を落とすことはないと、零のせいでこんな身体になってしまったと1ミリも思っていないと、リュウは話すのだった
「あぁ、そうだったな。叶音がそう思ってくれているなら、救われるよ」
「命があるってことはまだチャンスはある。絶対に組織の壊滅と元の体に戻る方法を見つけるから!」
元鑑識課なめんなよぉ!と気合が入った隣で「ふふっ」っと優しい笑みがこぼれる
「少しリフレッシュできたようだな」
「ん、助かった」
ありがと、と降谷の肩に寄り掛かると、何も言わず頭を撫でてくれるそれが心地よくて、スッとわだかまりが解けていく
「零は休憩取った?」
「いや、まだだが?」
「じゃあ…30分、オレの休憩に付き合って…」
返事も聞かずにそのまま頭を降谷の膝に乗せ、蹲るようにソファに足を上げるリュウ
頬から伝わる温かさに、昨日から一睡もしていない瞼は落ちていく
「おやすみ、叶音…」
大きな手がそっと優しく夢を誘った
━1章END━
そう、あの日は数多の星が輝き、音となることをやめた夜
星影叶音という音が消えた日…