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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



持ち上げた片手を自らの口元へ運ぶ。やがて男が形の良い唇の隙間から紅い舌先をちろりと覗かせ、瞼を伏せた状態で指先に落ちた雫をゆっくりと舐め取った。途端、さざめきのような悲鳴が周囲から上がる。緩慢に瞼を持ち上げた光秀が、その妖艶な金色の眸で正面に居る凪を捉え、緩慢に双眼を眇めた。

「っ、」

光秀がした一連の動作、その一切から視線を逸らす事が出来なかった凪は、最後にばちりと眼がぶつかり合うと顔を真っ赤に染め上げる。零れんばかりに瞠られた眸が熱と羞恥で揺れ、引き結んだ柔らかな唇がふるふると小さく震えた。暴れる鼓動は落ち着きがなく、胸の奥側を強く叩きつけるかの如く脈動を打っていて、文句のひとつすら発する事も出来ずに彼女は短く息を呑んだ。もうたれなどついていない、舐め取った同じ箇所をもう一度ぺろりと舐めた後、光秀が可笑しそうに笑って手を下ろす。繋いだままの手を優しく絡めながら緩く首を傾けた。

「どうした。俺の顔に何かついているか」

(な、なんか…)

あまりの余裕ぶりに、羞恥で完全に活動停止していた凪の思考がようやく動き出す。男の声には揶揄が含まれていて、凪が何も言い返せない事を分かっていながら問いかけて来るのだ。心の中でようやく必死に絞り出した声が震える。引き結んでいた唇へ更にぎゅっと力を込め、黒文字を手放した片手で硬い拳を作り、わなわなと小刻みに揺らした。

(すっごく負けた気分!!!)

ある意味結果的には光秀に妨害される事なく、団子を食べさせる事は成功したが、気分は限りなく敗北に近い。いっそ左手も握り込んでおくんだった、とまったく見当違いな事を考えながら、凪は繋いでいた手を離そうと力を込める、がしかし、生憎と机の上に置いていた彼女の手はびくともしなかった。

「あの、光秀さん…?」
「何、お前の左手が悪さをしないよう、捕まえておこうと思ってな」
「…う、左手は何もしてません」
「では、悪いのはその右手か」

窺うようにして声をかければ、光秀が悠然と笑みを浮かべる。

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