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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



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四方から向けられる好奇、あるいは恍惚とした視線。溢れる吐息や小さな悲鳴、それ等を一身に受ける男の真正面へ座していた凪は、何とも言えないその感覚に内心で苦笑し、ちらりと正面で湯呑みを傾ける相手へ意識を向けた。

「どうした」
「…いえ、何も」

凪の意識が向けられた事に気付いた光秀が、ことりと微かな音を立てて机の上に湯呑みを置く。片肘を置き、頬杖をつく体勢になっただけで、各所から上がる密やかな悲鳴などまったく意に介していない男は、ただ正面に居る凪だけを視界に映し、口元をそっと綻ばせた。────この男、只者じゃない。常々何処かしらで感じていたそれを、今まさにこれでもかという程実感している凪は、心の中で声にならない声を上げた。

(とんでもなく、居た堪れない!!)

事の始まりは、ほんの少し前まで遡る。
薬草問屋───英屋(はなぶさや)で起こったごろつきによるいちゃもん事件が何事もなく無事に解決し、彼らの連行を三成と家康に任せた二人は、店を後にしてから光秀の誘いにより、大通り付近にある一軒の甘味処で休息を取る事になった。城下でも指折りの人気店であるらしい店前からは、既に凪の鼻腔をくすぐる甘くて良い匂いが漂っており、安土城下の甘味処へ入るのも初めてという事実も手伝って、楽しみに暖簾を潜った瞬間、事件────という程大仰な事ではないが、それは起こる。

英屋から甘味処までの道のりも、行きと同じく恋人繋ぎ状態で手を繋ぎ、それを離さないままで店へ入れば、店内に居た女性客の視線が一斉にこちらへ────ではなく、光秀へ向けられたのだ。次いで視線はその隣に立つ凪へ、果ては繋がれた二人の手へと辿られて行き、最終的に数多の視線が凪自身へ突き刺さったのである。要するに、あんた光秀様のなに?といった類の視線だ。
視線に晒されて思わず凪が繋いだ手を解こうとした刹那、むしろ今まで以上に指を強くぎゅっと絡めて来た光秀が、恰幅の良い女将の案内した席へ歩き出せば、視線は更に凪を突き刺して来る。

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