• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



「そこら辺に生えてる雑草です」
「……やっぱりな」
「安土城御用達の看板を背負う大店で、雑草を町人に売付けたとなれば、大層な問題になるだろうが…」

半ば予想通りといった雰囲気の相槌と、光秀の敢えて煽るような口振りに男がいよいよ焦燥する。極めつけに光秀が若旦那へ流し目を送れば、彼は心外だとばかりに瞼を伏せて首を左右へ振った。

「とんでもございません。当店は信頼と安心を第一としておりますし…何より、その方達は一度もこちらを訪れた事がございませんので」
「な、客なんざ腐る程来る…!てめえが忘れてるだけだろうが!」
「一度当店へ訪れたお客様はすべて記憶しております。どのようなお方か、何をお求めになられたのか。それを覚えずして、どうして商人などと名乗れましょう」

若旦那の言葉には妙な説得力がある。確かに商売事の上手い商人は、基本的に記憶力が良い。店側にとっては多くの客の一人、といった印象であっても、客側にとっては唯一の店。印象の残り方は圧倒的に客の方が強い。だからこそ、店側も客を覚えていた方が、その印象の良さは格段に変わる。心地よさは金払いの良さへ繋がるものであり、それをこなせる者が財を築ける。理論上は分かっている事であっても、実際に身に着けている者が、果たしてどれだけ居るだろうか。

(だが、先程も凪が告げた薬草の種類を一度聞いただけで覚え、繰り返す事なく用意していた。この男の記憶力が良いのは、あながち商人特有のはったりではないかもしれないな)

光秀が思考を巡らせる横で、凪は一連のやり取りが男側のいちゃもんだった事にようやく気付き、何処となく呆れた様子で眉尻を下げる。

(あんなの薬草屋さんが見たら、誰だって雑草だって気付くのに)

せめてそれっぽい薬草でも詰めば良かったのに、などと思ったのは内緒の話だ。ともかく、弁解の余地がなくなって来た男は一度凪へ視線を投げ、それから後ろに控えていた仲間の男二人へ目配せをする。当然お粗末な彼らの動きなど傍に立つ三成には筒抜けであり、一度瞼を伏せた彼が再び紫色の眸を覗かせると、決して荒立ててはいない、静かな調子で言葉を発した。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp