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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



ゆったりとした口調と優雅な所作が浮世離れした印象を深めているらしく、すらりとした指先が柄杓を扱う様は実に絵になるだろう。
光秀は、それ等ひとつひとつの所作を何気ない風を装い観察していた。名家であれば躾けが行き届いているのは当然の事だ。安土城御用達の看板を持つ商家の若旦那たるに相応しい所作、と言ってしまえば容易に片付くのだろうが、妙な違和感がまとわりつく。

(…あまりにも自然過ぎる。俺の視線に気付いているにも関わらず、動揺のない素振りは却って不自然だ。分かっていて尚、それを貫くとは)

光秀から油断のない視線を向けられれば、その威圧感に町人ならば、特にやましい事が無くともつい萎縮してしまうというものだ。にも関わらず、若旦那はあくまでも自然体で凪と言葉を交わしている。五種類すべてをすくい終えた彼は、身を翻して台の上へ盆を置いた。

「お間違いございませんか?」
「はい、大丈夫です」

皿へ取り分けた薬草の種類を凪へ改めて確認すれば、彼女はそれぞれを見て間違いないと頷いて見せる。軽く首を傾げて口元へ笑みを浮かべた男は、盆の上の皿を眺めて不思議そうに双眸を瞬かせた。

「珍しい組み合わせでございますね。漢方の類かと思いましたが、少し違うようです」
「飲む方のお薬じゃないので。でも女性にはお勧めかもしれませんよ」
「左様でございますか。どのようにお使いになられるのか、差し支えなければお訊きしても…?」

ふわりと瞼を閉ざし、再度それを持ち上げる。覗いた灰色の眼を僅かに眇め、台の傍に立つ凪へ自然に問いかけた若旦那の視線が、すい、と彼女の髪に挿さる芙蓉の簪へ向けられた。男の視線の先を察し、問いかけへ凪が答える前に足を踏み出した光秀が彼女の腰へ腕を回す。

「まだしばし城下を散策する予定でな。それは後で俺の御殿へ届けてもらうとしよう。勘定はその折、家臣に請求するといい」
「え、お会計ここでするんじゃないんですか!?」

言いながら腰を自らの方へ引き寄せた光秀へ、予想外の展開に凪が声をかけた。あわよくば自分で全部払ってしまおうと考えていたというのに、先手を打たれてしまったらしい。ぎゅっと凪の身を自らに寄せた光秀は、喉奥でくつりと笑って視線を彼女へ流す。

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