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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



「お前の顔を見ればわかる」
「わ、私何も言ってませんよ…っ」
「何故嘘だと気付いたのか、疑問に思っただろう」
「また人の心、勝手に読んだんですか」

何も訊いてなどいないというのに、自然と与えられた答えに気まずそうな面持ちを浮かべれば、顎から手を離した男の指先がぴん、と彼女の耳を軽く弾いた。ぎゅ、と反射的に目を瞑り、顔を軽く俯かせた凪へ当然だと言わんばかりに答えを与えれば、些か複雑そうな表情で彼女が光秀を見る。

「前にも言ったが、お前はわかりやすい」
「……光秀さんが鋭いだけですよ」
「光栄だ」

上気した頬が少しずつ元の色に戻って来た事を確認し、大きな手のひらが頬を撫ぜた。完全に甘やかすような素振りを見せる男を相手に、何も言えなくなってしまった凪は、ひとまず妙な誤解をされては困ると付け足しのように口を開く。

「…でも、光秀さんが相手だっていうのは嘘じゃないですからね」
「それならいい。他の男が相手なら、お前は今頃普通に口を利けなかっただろうからな」
「……え」

内容まではあれこれ言う勇気などないが、相手が光秀だった事は紛れもない事実である。詳しく語れないにしても、せめてそれだけはしっかり伝えておこうと考えた凪のそれに、光秀はあくまでも穏やかな調子で返した。しかし声色こそ穏やかだが、言っている事はそこそこ物騒である。若干引きつった短い音を発した彼女を前に、男はくすりと小さな微笑を溢した。

「何、せっかくこうしてめかし込んだ姿を、多少乱すだけの事だ」
「乱す…!?だ、駄目ですよ!頑張って髪とか巻いたのに…っ」

緩慢に瞼を伏せた後、妖艶さが滲む眼差しを真正面から受けた凪が目を白黒させつつ軽く後ろに下がる。乱す、という言葉から先程【見た】光景を脳裏に過ぎらせ、ようやく落ち着いて来た鼓動を跳ねさせると共に、デートだと思って気合いを入れた姿をどうこうされるのはさすがに困る、といった意図でつい言葉を発するも、自らが告げたそれがうっかり失言だった事に今更気付き、片手で自分の口を塞いだ。その証拠に、凪の台詞を耳にした光秀の口元がほんのり嬉しそうに綻ぶ。

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