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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 序




(───…って、思い出したのが運の尽きだったかな!?)

眼前にずらりと並んだ男達を視線だけで見やり、凪は心の中で深く嘆息した。

事の始まりはあの日、仕事帰りに歴史オタクの友人から、先日別れた恋人の愚痴を聞いて欲しいと連絡が来た事だ。
最近特に戦国時代にハマっていると豪語していた彼女が指定したのは、本能寺の跡地と記された石碑が立つその場所である。
就職の関係で京都へひと月前に越してきたばかりの凪も、まだ街に慣れていなかった事もあり、下手な場所を指定されるよりは良いかと待ち合わせに快諾したのだった。
ところが、仕事でトラブルがあったという彼女から30分程遅れそうだと連絡があった。仕事ならば仕方ないと、そのまま待ち合わせ場所で待つ旨を端末へ打ち込んでいたその矢先。
朝から降っていた雨が一層激しくなり、大きめの雨粒が傘に打ち付けられる激しい音に何気なく視線を曇天へ向けた直後、激しい雷鳴が一帯に轟いた。

そして気が付けば…───。

(本能寺の変、修羅場真っ只中だったとか信じられる!?)

「凪、先程から黙り込んで一体なにを考えている?」

低く冷たい音が鼓膜のみならず、その場の空気をも揺らした。

「い、いえ、何でもないです!こんなに沢山居る武将の人達を前にしたら、つい緊張してしまって」

上座で片膝を立てた状態で脇にある脇息へと優雅に凭れた男───第六天魔王と称された、織田信長その人が深い色合いの瞳をじっと凪へ注ぐ。
うっかり数刻前の出来事に思考を飛ばして、ある意味目の前の事態から現実逃避していた凪は、掛けられた言葉にはっとして目を瞬かせ、取り繕いがバレないよう、無難に首を軽く振った後で苦笑を浮かべた。
凪の返答を取り繕いと気付いているのか否か、信長は緩く口角を持ち上げて吐息だけで不遜に笑んだ後、瞳にひどく愉快そうな色を宿す。

「燃え盛る本能寺で暗殺者どもから俺を助け、あまつさえこの俺の誘いを突っぱねた挙句、逃亡を計ろうとした豪胆極まりない貴様が、今更こやつらを前にして臆する事などないだろう」

(いや、誰だって急に本物の織田信長に愛妾になれとか言われたら拒否るし逃げるよ…!それに目の前にずらっと有名な武将が並んでたら、意識の一つや二つ飛んでもおかしくないと思う…)



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