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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 軍議と側仕え




「あの人は何考えてるか全然読めないし…」

秀吉とは違い、腹の底がまったく読めないあの男のならばすぐに直接的な行動を起こさない事も納得出来る気がした。
いずれにせよ、持ち物に関して問い詰められたとて、タイムスリップして未来から過去に飛んでしまったという、自分でもおよそ信じ難い事実を突き付けたところで、果たして信じてもらえるのか。
それ以前にタイムスリップの事を告げても良いものか。解決しなければならない事は山ほどあって、いくら思考してもキリがない。

(なんか一気に疲れた。一旦考えるのは止めよう)

どのみち、今の状況ではなるようにしかならないのだ。
時刻も分からず、これといってする事もない。背中から倒れるようにして上質だとわかる畳の上へ仰向けのまま寝転がると、凪は嘆息して瞼を閉じた。倒れ込んで畳に近づいた所為か、井草の優しく穏やかな香りが鼻腔を擽る。

「畳の香りは戦国時代も、現代も変わらないんだなあ」

遠く時を越えても尚、変わらないものも存在すると実感し、それが酷く凪の心を安堵させ、いつしかその意識はゆっくりと深くへ呑み込まれていった。


─────────…


次に凪の意識が浮上したのは空が茜色に染まった夕刻だった。夕餉の膳を運んで来てくれた女中の、障子越しの声掛けで目覚めた凪は長過ぎる昼寝に驚いて飛び起き、自身より少し歳上であろう彼女を驚かせた。

「きっとお疲れだったのでしょう。どうぞお気を楽にしてください」

袖で隠れた片手を口元へあてがい、上品に笑ってみせた女中はお千代(おちよ)と名乗り、信長から凪の側仕えとなり、身の回りの世話をするよう任ぜられたという。

「織田家ゆかり、それも秘蔵とされていた姫君のお世話を任されるなど、光栄の至りにございます。どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」
「(秘蔵の姫って、信長様いくらなんでも盛り過ぎでは!?)…いえ、こちらこそ宜しくお願いします。あの、あまり畏まらず気軽に接してもらえると嬉しいです」
「まあ…」

そういえば表向きはどこぞの姫扱いをしてやると軍議の場で言われていた事を思い出す。よもや織田家ゆかり、しかも秘蔵っ子にされるとは思わなかったが、出自を調べられても面倒だから、という信長様なりの配慮なのだろう。

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