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【モブサイコ100】その花の名前は。【島崎亮】【短編集】

第1章 その瞳に映るのは


「左利きに人権はあるのか」

「はい?」

突然声を発したかと思えば、第一声がこれなのだから島崎さんが驚くのも無理はない。申し訳ないことをした。ごめんなさい、と心の中で呟く。

「改札を通る時はわざわざ切符を右に持ち替えなければいけないし、ボールペンは使い切れない。レストランのスープバーのお玉は注ぎ口が反対になるし、ハサミで上手に切ることができない。世界はマイノリティに優しくない!」

「それ、私に言ってしまうところが実に貴方らしいですね」

島崎さんは呆れているが、ちゃんと本から顔を上げて話を聞いてくれるあたり優しい。
そういう何気ない気遣いができるところが、私は好きだった。

「島崎さんだから言ってるんですよ。あぁちなみに、世界における左利きの割合は10%らしいです。つまり、10人に1人が左利きという訳ですね。これが女性に限定されると、たったの2%。この数字、島崎さんは多いとみます?少ないとみます?」

「私からしてみれば、左利きの人口はとても多いように見えます。まぁ最も、私自身が盲目に加え超能力者という超少数派の中の少数なので、ある意味妥当な意見かと」

「確かに、島崎さんみたいな人は早々いなさそうです。これから先の人生で出会うこともないでしょうし…それに比べ左利きの人とは、ほぼ確実に出会う。やっぱり、まだまだダメですね」

「何を言いたいんです、言いたいことがあるならはっきり言う」

私の様子がおかしいと思ったのか、本を閉じていつになく真剣な表情で私の方を見据える。
目が見えないだなんて嘘なんじゃないかと思ってしまうほど、彼は人の感情の変化に敏感だ。
けれど、その閉ざされたまぶたの裏側に眼球はない。ただ底なし沼のような暗闇が拡がっているだけ。

「…私はただ、島崎さんと一緒になりたいんです」
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