第15章 縛りの為の呪物
「一応写真撮っちゃったけど。ヤドカリなんてこの辺いっぱい居るじゃん?」
『そこ、そこにも居る…っ!』
「何?キミどんぐりの事しか考えられなくなったメイちゃんなの?」
しゃがんで視点を変えればいっぱい居る。目視だけで5匹は見つけられたぞ!ふんす!と鼻息荒めに悟を見たらははは、と笑われて近場のヤドカリを集めて数匹砂浜に置いた。
「手の届くところにも発見~っとな!ヤドカリレースでもする?僕のこの子はねー…オグリキャップって名付けちゃお!」
『お、レースか?負けないよ?じゃあ私はディープインパクトー!』
どこかで聞いた、スピード自慢の馬、いやヤドカリの名称が着けられていく。この流れだと悟、次はなんて名付けるんだろう?
色んな名称を浮かべる中でにこにこと楽しげな悟は奇妙な動きを見せるヤドカリを指差した。
「追加の小さなこいつは噛ませ犬もとい噛ませヤドカリ……ハリボテエレジーだ!」
『えー?一匹だけなんかジャンル違くない?コースアウトとか落馬で突如ガムテープの剥がれる音しそうなんだけど?』
「ん?物言いかな?じゃあギンシャリボーイにする?欽ちゃん走りしだすけど?チョクセンバンチョーでも良いよ?」
『変化球しかねえのか追加のヤドカリはっ!……ハリボテエレジーで良いよ、割と有名だしね……』
ふっ…、とキメ顔で笑い、髪を掻き上げる悟。
「うまぴょい伝説が、今始まる…!」
『朝っぱらからヤドカリレースで無駄にフェロモンだすな。
ソシャゲのしすぎでは?五条悟さん、呪術界のゴールドシップ化してる気がするんですけど?』
ふふ、と笑いながら指先で線を引いて勝手に始まったヤドカリレース。主催者、実況者、観客、設備……全ては私と悟の成人ふたりのみ。人間達の思いを彼ら、彼女らは全く知らずに思い思いに走り出す。
「あーっと加速するのはディープ!ディープ!ディープインパクトだぁー!」
『オグリキャップも負けてない、ディープに一度衝突したけれど持ち直せるかー?』
それっぽい実況を開始したのは良いのだけれど。
あっという間に斜めへとコースアウトするディープ。くるりと回転し、進行方向外へと走っていくオグリ。そしてまさかのハリボテがきっちりコースを滑走していく。ほんとに変化球が全ての話題をかっ攫って行くらしい。