第9章 五条求婚する
69.
私は両肘を机につき頬杖をついてぼうっとしていた。
「ねぇ、あんたさぁ…なんか週の始まりからやつれてない?」
『……んあ?』
二限目が終わって釘崎が話しかけてきた。頬杖から釘崎を見てまた頬杖をつく。
言うべきかと少し口ごもった後に私は一つため息を吐いて首を振った。巻き込めないや。
悩みのタネは机の中にしまい込んである。
『いや……流石にこれは私の問題だし巻き込むのも…』
「ザギンのシースー食べた仲じゃない!……ちらし寿司だけれど。この釘崎野薔薇様がみたらいハルカ姉さんの悩みくらいは聞けるっての!…で?何よ?」
ギクッ。
あの時は回らないってそういう事かよーッ!っとトンチの効いたちらし寿司専門店に連れて行かれた日々からしばらく経って、一昨日ついにトンチとかじゃない本物の回らない、しかもわざわざ夜にやる所昼に特別に営業して頂いた寿司屋を思い出した。今じゃ携帯の壁紙に設定してるきらびやかな大トロ。デートでちらして無い方食べたなんて言えない…!
頬杖ついとる場合か、と自身の胸に片手を当て自信満々の表情の釘崎からそろそろと視線を斜め下に移す。
『アッハイ……えと、うん……』
「先生とでも喧嘩でもしたん?みたらい」
女子達のやりとりを見てそこに虎杖が混ざり込んできた。
喧嘩をしてるわけじゃない。虎杖の疑問に私は首を振った。むしろ仲は良い方だと思う……色々と…うん、多分。
この流れは尋問が来るな?曖昧じゃない、きちんと強気に断って自分一人で考えなきゃ。この空気を読んでピンときたので片手を突き出し、首を振った。
『──フン、我はその手に乗らんぞ』
「あ、挙動おかしい。これ先生関係だわ。虎杖攻めるぞ!」
「おう!」
『まじかよ』
ギギ、と椅子を膝裏で押し急いで席を立つ。
静かに席でブックカバーを着けた何かを読書中の伏黒の後ろを走り抜け、背後から追ってきているふたりから逃げる。
もちろん虎杖はスピードタイプだから逃げ切れる自信は無かった、だからこそ走りながらに術式でうねうねと伸ばした式髪で教室の隅で繭の様にバリケードを作った。
ただの髪ではない、呪力の籠もった遺髪の召喚。そう簡単には切れない。
どっちがオリの中なのやら、という感じにふたりは"怒髪天"により編み巡らされた壁の隅。カチカチの髪を掴んでウーウー唸って居る。おっかない。