第8章 海で
波の音だけが聞こえる。
長い、長い、沈黙。
手の中の缶コーヒーは、いつの間にか冷たくなっていた。
どうしよう。30過ぎたオッサンが、泣きそうだ。
俺ってこんな感じなの?って、初めての自分に驚いた。
「私で、いいんでしょうか………」
「何度でも言う。佐藤じゃなきゃ嫌」
ずっと前をむいて、どんどん沈む夕陽だけを見ていたけど、隣に座る佐藤を見る。
夕陽に照らされた佐藤の横顔。
「ねぇ、佐藤?こっち見て?」
そう言う俺に少し目が泳いだあと。
ゆっくりと。
目が、合う。
「これで最後にする。
って、ちゃんと言うのは初めてだけど………」
告白なんていつ以来だろう。
息ってどうやってするんだっけ?
「俺は佐藤のことが好きです。
俺と、付き合ってくれませんか?」
「………そんな顔、しないで下さい」
「え?俺今どんな顔してた?」
今度は意識して、笑って聞く。
「泣きそうな、顔」