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【呪術廻戦】無下限恋愛

第20章 呪胎戴天


 揺らぐ思考の真ん中で、その顔が鮮明に描かれる。


(本当に……パサパサのクッキーが、最後の思い出になっちゃった)


 笑っちゃうよね、本当。

 でもね、わざとパサパサにしたわけじゃないんだよ。

 あれでも、私なりに精一杯作ったの。

 だから、何度作ってもお店で売ってるような、美味しいクッキーにはならないと思うの。

 だって仕方ないじゃん。

 誰かに料理を作るのなんて、五条先生が初めてだったんだよ。


(もう……料理の文句も、聞けないんだね)


 次、五条先生がそばに置く人は料理がすっごく上手な人なのかな。

 それは、なんか嫌だな。

 でも下手っぴだったら、私のまずい料理は忘れられちゃうかな。

 それも、やっぱり嫌だな。


 自分で思っておいて、笑っちゃう。

 五条先生の『次』を考えることが辛い。

 私の知らない五条先生の未来が、苦しい。

 私じゃない誰かが、五条先生のそばにいる毎日が。

 どうしようもなく、嫌で。


「まだ、死にたくないなぁ」


 思わず漏れた声は、誰にも届かない。

 虎杖くんに偉そうに説教しておいて、私がまだ未練たらたらなの。


「五条先生」


 もう一度声が聞きたいよ。

 また、私の料理を食べてほしいよ。

 抱きしめて、キスしてほしいよ。


 ねえ、五条先生。


「……好き、だよ」


 伝えられなかった想いを口にして。

 想像の中の五条先生が、私をバカにして笑うの。


 その顔が……その声が。

 五条先生のことが、やっぱり好きなの。


 でもそんな気持ちも全部、もう言えない。


(悔いのない死は、ないんだよね)


 私の悔いは……五条先生に、なっちゃった。


(だけど……)


 きっと私の選択は、間違いじゃないから。


 あの世で傑さんもきっと『頑張ったね』って褒めてくれる。


 五条先生は……やっぱり怒るかな。


 でもそれでもいいや。


 それでもいいから。


 どうか私を、忘れないで。


 五条先生。


「……バイバイ」


 私は虎杖くんを抱きしめたまま、目を閉じた。
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