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ヘアゴム

第1章 お話。


学校の桜が満開なこの日。


俺の大好きな先輩が、この学校を卒業する。






「先輩!」



卒業生の群れの中に彼女を見つけ、走りよって声をかける。
彼女は俺の声にすぐ気づき、振り返っていつもの笑顔を見せる。


「おー、玉じゃん、どうしたの?」
「先輩、もう卒業なんすよね…」
「ははは、そうだね。無事卒業できてよかったよー!」


そういって彼女、佐々木美優先輩は卒業証書を掲げて見せた。
まぁ、先輩はふざけてる事が多いけど、
真面目な所はしっかり真面目にやる人だから、
卒業出来ないなんて全く思っていなかったけれど。



―――卒業できなければいいのに。


そう思った事もなかったわけではない。
一つ下の学年である俺は、殆ど先輩と校内で会うことは無く。
もし先輩が留年とかして俺と同じ学年になったら一緒にいられるのにな、とか。
俺が勉強頑張って飛び級とか出来るんだったらよかったのに、生憎日本にその制度はない。
それが出来たら俺、めちゃくちゃ勉強頑張っちゃうのにな。



「これで俺も一安心ですよ」
「えー?どういう意味よー」
「手のかかる先輩が無事卒業できたので」
「なにそれムキー!」


先輩はちょっと膨れた面白い顔をしながらもらいたての卒業証書で俺を叩く。


「じょ、冗談っすよ」
「ならばよーし」


そういって先輩は笑った。


この笑顔がもう見れなくなっちゃうのかな。
最近はその事ばかり考えていた。
俺が落ち込んでるとき、嬉しいとき、
何かあったときには何故か先輩は急に現れて、傍にいてくれた。
自分でも、そばにいると何故か不思議な気持ちだったんだ。
今まで感じた事の無い、安心感。
先輩がいてくれたから、学校も頑張れていると思う。
先輩が卒業してしまったら、俺はどうなってしまうだろう。
そう思うと、情けないけど、怖くなってしまう。



伝えるなら今しかない。


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