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【イケメン戦国】白衣の戦姫

第2章 姫さん、出陣する


「火を放て」



信長は無機質な声でそう指示した。
戦が終わり、用済みとなった敵国の城を燃やしたのだ。

普通の娘ならば非道だと思うだろう。
否、華音でもそう思う感情はあったかもしれない。
しかしそれは、あくまで“燃やされる城の中に人がいる”時の話である。



「勿体無いですね」

「何がだ」

「城がです」

「ほう…貴様、俺の決めたことに文句を言うつもりか」

「事後なら文句を言っても何もならないので、良いかなと」



華音の言う通り、既に城は大部分が燃えていた。
これから誰がどう非難しようと、燃やされた城が綺麗に元に戻ることはない。



「ではあの城の跡を建て直すとして、貴様ならどうする」

「稲を備蓄する倉庫にするとか」

「色気が無いな」

「じゃあ信長様ならどうなさいますか」

「厩だな」

「色気が無い」



頭の回転が速い者同士によるぼんやりした会話はなんとも奇妙である。



「時に華音、此度の戦は死者が出なかった」

「そうなんですか」

「とぼけるな。貴様が負傷者を全て助けたからだろう」

「私だけではありません。一人なら無理でした」



華音は自分を過大評価も過小評価もしない。
自分がどこまで出来るのか、どこが限界なのかを分かっている。
それは医者としてでは勿論、元来の性格からも由来している。

故に信長の発言には一度肯定し、そして否定した。



「普通、どこの馬の骨とも知らぬ小娘に命を預けるなんてことはそうそう出来ません。ですが、皆さんはすぐに私を信用して、手伝わせくれと名乗り出る方さえいました。
それはおそらく、“私が”信長様の連れ人だからではなく、“あの方達が”信長様の家臣だからでしょう」

「…ほう」



華音は言葉を飾らない。
思ったことをそのままに、とは少し違うが、何かの報告書よりももっと偏りのない言葉を並べる。
年頃の娘よりもやや低く抑揚のない声は、それをより一層強調させた。
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