第8章 姫さん、探し人になる
あの謙信の師。
それはもう、毎日のように刀を片手に佐助や幸村を追いかけ回す謙信のルーツとも言える人。
正直、全く良いイメージが湧かなかった。
「…つまり、死んだと思われていた上杉謙信公と武田信玄公は生きていて、今この安土にいて、というか私の目の前にいて、謙信様の御師範の血縁と思しき美少年が私を探している、ということでよろしいですか」
「すごい、合ってる」
ものの十数秒で状況を整理し、的確かつ丁寧な言葉でまとめた。
物凄くわかりやすかった。
それだけでも、華音の聡明さが伝わってくる。
しかし聡明は聡明でも、普通の姫君の受ける教養のようなものとは別物に感じた。
実際全くの別物だが。
(これは…信長様達に言うべきか…)
華音は迷っていた。
言ったら迷惑をかけるかも、なんて甘っちょろいものではなく、個人的に言えないことも含めた不確定要素満載のことを、信長達に押し付けていいものなのか分からないのだ。
「一応訊いておくけど、君は誰かに恨まれるようなことや命を狙われるようなことに心当たりは?」
「…それはいつの話?」
「出来れば今までの全部」
「………」
((あるんだ))
再び深く考え込んだ華音。
どうやら心当たりはあるらしい。
「無いとは言えない、けど、少なくともその中に“継国”はいなかった」
あくまで華音は、継国の関与を否定した。
ここで考えても意味はない。
仮に結論に行きつき、それが合っていたとしても、織田軍の敵武将の前で話すのは危険な気がした。
「…話してくれてありがとう佐助くん、幸村どの。戻って相談してみます」
「出来るだけ強い武将に守ってもらうんだよ。美少年に限らず、今の君の身は安全とは言えないから」
「分かった」
謙信が先程からこちらを見ていたので、何ですかという視線で返す。
「お前は結局、信長の女ではないということか」
「残念ながら違います。残念ながら」
全く残念そうに聞こえなかった。
二回言ったのに。