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The Tempest【憂モリ】

第1章 硝子越しの哀憐



その再会は偶然というより、まさに青天の霹靂であった。


ルイス・ジェームズ・モリアーティはその日、長兄アルバートの代理で領地内の農家や商家数軒に顔を出し、銀行に寄って、日用品を書き足し、いくつかの用を済ませ……

兄弟の待つダラムの家へと向かう帰り道の途中のことだった。



――それにしても、少々買い込みすぎたか。

必要なものをほんのちょっと買い足す程度のつもりが、結果的に両腕にあまるほどの量になってしまい、ルイスは小さくため息をもらす。

鮮魚屋の前を通りがかった時にふと、いつだったか以前作ったスターゲイジーパイを兄が気に入っていたことを思い出し、予定外だったにも関わらずついつい買い求めてしまったのが一因だが、致し方ない。
ルイスにとって兄弟の為ならばそれはいつだって必要経費であり、最優先されるべきなのである。


大した距離はないので来た時と同様、徒歩で帰宅する予定だったが、さすがに一日中あちこち走り回ってそろそろ疲労も感じてきている。
ルイスは徐ろにフレッドの方を振り返り、「どこかで辻馬車を捕まえましょうか」と言った。
フレッドの腕にも大きな紙袋が抱えられているが、文句も言わず黙ってルイスの後をついてきている。


どこかの大佐とは大違いだな、と心の中で独りごちる。
彼ももう少しくらいフレッドを見習ってくれると助かるのだが。
まああれでも仕事はできる人なので、今後も兄の手を煩わせることさえしなければルイスとしては特に言うことはないというのが本音だ。
あまり好き勝手にさせておいてもつけあがるので、時々はせっついてやることも本人の為だが。

これが大佐ならば「使いっ走りなんてどうのこうの」と文句を言っていたところだろう、やはりフレッドを選んだルイスの人選は正しかったと確信を深める。


「……フレッド、平気ですか。」

ルイスが気づかって尋ねると、フレッドはやはり表情を変えぬままコクリと頷くだけだったが、彼が寡黙なのは今に始まったことではないので気にも留めない。


「……これも、仕事だし。」

珍しいことに、フレッドはぽつりとそう呟いた。
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