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夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】



「【名前を呼ぶたびに 呼ばれるたび ずっと強くなれる】」


 パンパンッと剣は弾かれる。けれども、止まらない。止まれない。
 伏黒たちが逃げ切れるまで。この声が嗄れるまで。喉が潰れるまで。


「【キミの瞳が その優しさ 笑顔が眩しい】」


 詞織は再び聖剣を召喚し、それを手に取り、地面を蹴った。


「【生まれる想い この歌声(こえ)に乗せて――】」


 剣を振りかざす。まさか、単身で迫ってくるとは思わなかったのだろうか。
 詞織は勢いのまま、大きく聖剣を振り下ろした。


 ――ザンッ!


 左の首筋から斜めに切り裂く。血飛沫が地面を濡らした。

「やっ、た……?」

 もしかして、特級を倒せたのだろうか。
 それも、詩音に頼ることなく、自分の力で。

 胸にじわりと、高揚感や達成感が満ちる。

 だが、そんな気持ちも束の間。
 呪霊の頭にいくつもついた目がギョロリと蠢き、詞織は息を呑んだ。

 ダメだ。やはり、自分の力では及ばない。

 呪霊の傷が塞がっていく。
 それを見て、詞織の頭は一瞬で状況の不利を判断した。
 なりふり構っている場合ではない。

「詩音! おねが――……」

 呪霊が鋭い爪を備えた腕を突き出してくる。
 迫る呪霊の腕が、やけにゆっくりと映った。
 それなのに、身体は少しも動かなくて……。


 ――メグ……。


 不器用な幼なじみの姿が、脳裏を過ぎる。
 同時に腹部へ衝撃が走り、詞織は意識を手放した。

* * *

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