第12章 イベリス *
それよりも“お口でできる”って言ってたぞ?
またパンダ先輩にでも何か吹き込まれた?
“魔法”だとか、“甘えん坊にならない”だとか言ってたしな。
純粋な桃花 はとても可愛らしくて、きれいで、素直だ。
それ故にもどかしく感じてしまうこともある。
桃花を抱き上げて、ベッドへと降ろし布団を掛ける。
起きたら先生の部屋へと送り届けなければ。
...しばらくは起きないでほしい。
そうすれば長く俺の部屋に居てくれるだろ?
朱く染まった唇を指先でゆっくりとなぞる。
少し開いた口の隙間から指を一本滑り込ませて、柔らかな舌の上をそっと撫でる。
『...ん...。』
ぱくりと入れた指を無意識に咥える桃花 。
口内はぬるぬるとしていて温かい。
この可愛い口の中に誘われたら...
だなんて、また邪な気持ちがすぐに顔を出してしまうのを無理矢理 心の奥へと仕舞い込む。
桃花 と一緒に少しずつ大人になっていきたい。
ふと、ソファーの上のチョコレートの箱に目が止まった。
「...これ...。」
箱を手に取ってパッケージを眺める。
“洋酒使用 アルコール分3.7%”
「........................アルコール入り.....。」
真っ赤な顔、突然甘え出し、突然眠ってしまった桃花 。
魔法がどうとか...。
桃花 が何を考えていたのか分かった気がした。
「かわいいヤツ.....。」
思わずくすりと笑みがこぼれる。
将来アルコールは俺の前だけで飲ませることにしようと、こっそりふたりの約束事を作りチョコレートを一粒口の中へと放り込んだ。
「..........あま........。」
お姫様との日々は
甘ったるく、時に苦い
チョコレートのような毎日。