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わたしは、この日のために【鬼滅の刃】

第5章 強くなりたい


朝方、音を立てぬように帰ってきた杏寿郎。
特に傷もなく帰還である。

杏寿郎は何となく、違和感を感じて中庭を覗く。
そこには汗を流しながら一人で素振りをする愛の姿があった。

「感心感心!でも、今日の太刀は迷いがあるな。」
『あ、おかえりなさいませ。…迷い、ですか。』
愛は少し腫れぼったい目をしている。
それに気づいた杏寿郎は
「む、何かあったか?」
『あ、え、いえ、何も…』
最後の方は尻すぼみになりながら、愛は顔まで背ける。
「何もないという顔ではない。ほら、こっちへおいで。」
杏寿郎はふわりと笑って、自分の横に座らせようとする。

そんな風に言われては逆えず、愛は促されるがままに隣へ腰を下ろす。

「さぁ、話してみなさい。」
『あ、あの…ふっ…じ、じつは…』
話始める前から大粒の涙が頬を濡らす。
「ゆっくりでいい。」
杏寿郎は愛の肩を抱き、自分の胸へと引き寄せる。
杏寿郎なりに泣き顔を見ないようにと配慮した結果である。

『…っ!あの、ただの夢、なんですけど…』
愛はポツリポツリと夢での出来事を話し始める。
遠くにいる母が恋しくなった、と。

ドク、ドクと杏寿郎の胸の鼓動を聞きながら、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。

『…あ、あ。すいません!もう大丈夫です!』
落ち着きを取り戻すと今の格好の恥ずかしさに気づき、パッと杏寿郎から離れる。

「うむ、愛は急なことばかりだったからな。混乱して当然のことだ。…親元へ帰りたいか?」
杏寿郎に迷いが生じる。
このまま継子として果てのない責務を愛に負わせるのか、親元に返してやって平和に暮らすのか。
愛には鬼を狩る動機がない。
親や親しい人を鬼に殺されたわけでもない。
ここで引き返させたほうが良い。

「親元の場所がわからなくても、何とか探し出して…」
『いえ!』
杏寿郎の言葉に重ねる愛。
『わたしにもう帰る場所はないのです。わたしは、杏寿郎様のお側にいたいのです。』
止まったと思った涙がまた溢れ出す。
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