第1章 嚆矢濫觴
「全部おばちゃんが教えてくれた。
ダメな私に、ぜんぶ。
なにかあっても、いつも笑い飛ばしてくれて、
全然笑えない私に、笑い方も教えてくれた。
おじちゃんも、たくさん。
怒ってくれるのに、殴ってこないの。
今の、宇髄さんみたい」
そう言うと、宇髄さんは
はぁとため息をついて、
「お前、
ちゃんと愛してくれる人がいるんじゃねぇか。
その2人のために、
そんなおかしな事いってやるなよ」
「何で愛してくれるのかがわからなかったんだ。
またいつか殴られるんじゃないかって、
怖かった。でも、
そうしないのあの2人。
いつも笑ってくれるの」
「睦の事が好きだからだろ」
「何で私の事なんか好きなの?」
「お前そんな事な、本人らにきけよ」
……
「じゃ、宇髄さんは何で私の事すきなの?」
「俺に命をくれたから」
即答した。
…え?
「命をくれたって何?」
「いいんだよ。そうなんだから」
「わからない…」
「わからなくていい。
……とにかく睦、お前俺のそばにいろよ、ずっと」
「なんで」
宇髄さんは私の目を見つめて、
おでことおでこをくっつける。
「俺が愛を埋め込んでやるから。
あと俺がそばにいたいから」
…照れもせず、よくこんな事が言える。
「私といてもつまならいのに」
「つまらんかどうかは俺が決めるわ」
「私、宇髄さんのこと好きじゃない」
「そのうち好きでたまらなくなるからな」
戯けたように言った彼に、
私は不覚にも笑ってしまう。
「好きでなくてもいいけどよ…」
宇髄さんは少し言い淀む。
「…嫌いでもねぇな?」
不安そうに訊く宇髄さんに、
「嫌い、でもない」
と、答えると
それは嬉しそうに笑ってみせた。