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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第50章 抱きしめて欲しくて〜豊臣秀吉〜




もう春に近づいている。
暖かい日差しを感じて、私は城下を一人歩いていた。
秀吉さんとなるべく顔を合わせたくなくて、逃げるように城を出て来たのだ。

私はふと空を見上げて目を閉じた。
高い高い空。
雲はもっと遠くにパラパラとあるだけ。


目を閉じても眼の中に光が差し込んでくる。


ああ、気持ち良い。
秀吉さんに抱きしめられている時を思い出す。
あったかいなー。

私は両手を広げて深呼吸をする。


「急に立ち止まんなよ、あぶねぇな」

聞き覚えのある声に、私は目を閉じたままクスッと笑う。


「なあに政宗。良いでしょ、春の訪れを身体で感じているの」
「へー、風流なこって」
「…馬鹿にしてる?」
「してねー、してねー。春めいて来ると気持ちいいよな」
「うん、気持ちも前向きになるし」
「…へえ。後ろ向きになるようなことでもあったのかよ?」
「……別にない、よ」

すると、ふっと政宗が笑った。

「良かったな、目を閉じてるから嘘ついててもバレねぇな」
「やな言い方だな、政宗」
「嘘つくお前が悪いんだぜ?」
「嘘、ついてないもん」

私は目を開けて、横にいる政宗をじとっと見た。
口の端は上がっているのに、瞳は優しさが溢れている。

太陽の光のせい?
眩しくてよく見えないや。

「仕方ねーな、甘味でも奢ってやる。来いよ」
「…なんで?」
「上手いもんでも食えば元気になるだろ?人間なんてみんなそんなもんだぜ。せっかくの一日、暗い顔して過ごしても同じ一日なら笑って過ごさなきゃ…な」

政宗はそう言うと、私の手を掴んで走り出した。

「は、走らなくても…っ」
「身体を動かせよ。頭なんか動かしても意味ねーから」
「は、早い…っ。待ってよ、政宗」
「運動不足だぞ、お前」

その後二人で笑いながら食べた甘味は美味しかった。
秀吉さんと過ごした次の日とは思えないくらい、私の心は晴れ晴れとした。


太陽が連れて来た、政宗のおかげで。



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