第8章 008
「例えばこれを…」
榎本が手にしたのは、バーカウンターの上に重ねられていた、紙製のコースターで、
「このカードと同じサイズにカットします」
それをどこから取り出したのか、ハサミでカードと同じサイズに切った。
「実は、カードキースイッチと言うのは、多くの場合同じサイズのカード状の物であれば、実際のガードキーでなくても作動させることが可能なんです」
「へ、へぇ…、そうなんだ…?」
目を丸くした翔太郎が、榎本がテーブルに置いたコースターを切って出来たカードを手に取り、マジマジと眺めた。
「勿論、全てが…というわけではありません。透明な物だと対応しない場合も、あるので…」
「そうなの? へぇ、流石セキュリティ会社の人だ…」
大袈裟なくらいに、やたらと感心して見せる翔太郎に、榎本は無表情のまま頭を軽く下げると、翔太郎の手からコースターで出来たカードを受け取り、他の三枚と一緒にテーブルに並べた。
そして、やはり黒縁眼鏡の端を指で持ち上げると、
「ですがおかしいですね」
そう言って偽造されたカードを手に取った。
「本来、この部屋に設置されているカードキースイッチは、同じサイズのカードであれば、作動する筈なんですが、何故でしょうか…」
言いながら向けられた榎本の冷たい視線に、翔太郎はわざとらしく肩を竦めて見せた。