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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第4章 急―御手柔らかに―


謙信は視察を兼ねた遠乗りから帰り、軽く汗を拭き清め自室に戻る途中、廊下に小さく漏れる声に耳が反応した。
城内であれ誰が何を話していようと然程興味は無いが、声の主がであれば反射的に神経が冴えてしまう。
どうやら「好きに使っていい」と言った、普段は使っていない客間から聞こえてくる。
誰かと話しているようだが随分と親密な声に思える。

一瞬で胸がざわつくが、歩調を早めようと足を一歩踏み出したところで相手の声が佐助だと気付いた。
佐助がによからぬことをするとは思えないが、不信感は拭えない。
そもそも二人だけで親密に話す事自体が気に喰わない。
客間のそばまで来て足音を消して近付くと、会話の内容が概ね聴こえる。

「……確かに、この前より少し……ったね」
「そうでしょう?もう一度……」
「だけど、何度したって……このくらい……?」
「お願い、もう少し……から……」

途切れ途切れだが、妖しい言葉のやり取りに頭が熱くなり、即刻怒鳴り込まずにいられない。
怒鳴り込むだけでなく、いくら重用している恩人とはいえ、佐助でも許せる気はしない。
もただでは済ませられない。
ギリギリの理性で何かの誤解ではないかと冷静になろうとする傍から、苦し気な息遣いが聴こえてくる。
が息を詰めた時に聞く切羽詰まった様な吐息なのは、毎晩のように抱いていればすぐに分かる。
そんな声を障子越しにでも聞けば理性など一瞬で吹き飛んでしまった。

勢いよく障子を開け放し、右手は愛刀の柄を握っている。
「……っえっ?!」
驚いたの声には後ろめたさや恐怖でなく、純粋な驚愕だけがあり、謙信もいざ障子を開け放した目の前の光景に先程までの煮えくり返る様な怒りがやや削がれた。
しかし、怒りが多少削がれたところで理解が及ばない。
二人は身体を重ねてこそいないが、机を挟んで向き合い、佐助が机の上に置いた左腕をが両手で握りしめているのだ。
状況は理解が出来ないが、しがみつくように両手で男の手を握るのは十分に許しがたい。
「……どういう事だ?理由によっては血の海にしてくれる」
底冷えする鋭い声と眼差しに佐助は最初怪訝な顔をしていたが、すぐに納得の表情に変わる。
勝手に腑に落ちている余裕が益々気に喰わない。

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