第1章 IFストーリー 安土の蝶と越後の龍 「琴菜様リクエスト」
「…すみません、少しだけ服を乱されまして…。」
しのぶがそう言うと謙信はまた刀に手を掛け始めた。しのぶは慌てて彼を止めようとする。
「…謙信様っ?!…な、何をやって…?」
「…この者たちは形を留めておくことさえ許されぬ大罪を犯した。…細切れになるまで刻んでやる。」
謙信はしのぶの静止を聞かずに刀を、既に息を引き取っていた男達に向けた。
「どうどう、謙信様。落ちていて下さい。…しのぶさんが困っています。」
謙信の腕を掴んで、止める佐助に謙信は凍てつく様な瞳を向ける。
「…どけ、この者たちを斬り捨ててやる。」
「もう、斬り捨てられてますって…!」
いつまでも、刀を男達に振ろうとする謙信にしのぶはその腕を掴んだ。すると、謙信の動きがピタリと止む。
「もう、終わりました。…これ以上、此処で謙信様が返り血を浴びる理由はありません。」
しのぶは謙信に優しく微笑んだ。
「…しのぶ。」
漸く、瞳の焦点が合う謙信がしのぶを見つめた。そして、自分の着ていた羽織をしのぶの肩に掛けた。
「…謙信様。」
「…今のお前の姿は目に毒だ。此れを羽織っておけ。」
「ふふっ…ありがとうございます。…じゃあ、帰りましょう、謙信様。」
しのぶが、謙信に微笑見ながら片手を差し出すと彼はそれに応えるように少しだけ口角を上げてその小さな手を優しく握った。
「…ああ、帰るか。……後の事は任せる、佐助。」
彼はそう言ったあとに、後ろに控えて居た佐助に呟いた。
「…はい、お任せください。」
そうして、後の事は軒猿によって隠密に処理され、娘は母親の下に返された。その女性は大層喜んで、何度も頭を下げていた。こうして人攫い事件は幕を閉じたのだった。…しかし、まだ解決していない問題がある。それは…。
「越後の龍ぅぅぅぅ!!貴様、お姉様に何をした?!」
睡眠薬の効果が無くなり、目を覚ました冬はしのぶが居ないことに気づき、慌てて探し回った所、愛しのお姉様と憎き謙信が手を繋いで帰ってきている所を目撃してしまった。勿論、冬は怒り狂っていた。
「…ふん、小娘。貴様に言う必要は無い。」
「……やっぱり我慢できません、お姉様!今ここでこの男を消します!!」
「ふっ…やってみるがいい。」
そうして、冬と謙信の死闘が始まってしまい、呆気に取られた佐助としのぶは苦笑いをしていた。
